通勤電車で

「……年後の一月五日、28になったときに○○のシダックスの前で待ち合わせな」
「えー。そんなのムリ」
「大丈夫やって」
 朝の電車内のこと。
 若い男が連れの若い女にそんなことを言っていた。
 単純に来年も一緒にいようという事を遠まわしに言って、彼女を安心させようとか、喜ばせようとしているのかと思いながら狭い車中に響く声を耳が拾う。
 勘だけで、この二人は普段あまり頻繁には会えないか、もしかしたら遠恋で正月休みでも利用して共にいるのかと思った。
「覚えてないってば。10年後なんてムリムリ覚えてるわけないよ」
 女の方がそう言って、やっと僕はその二人の年齢がわかった。電車に乗り込み耳が拾い始めた部分から勝手に来年辺りの話をしているのだと思っていたが、もっと先の未来の話をしていたのか。
「大丈夫やって。俺絶対覚えてる。一月五日の度に28の誕生日は○○のシダックスの前で、って」
「絶対ムリ。来年でも覚えてないよ」
「大丈夫やって、そんでもし忘れたら、忘れた方が、えと……高級レストランで奢りな」
 彼女さんを安心させようとかではなく、彼氏君の方がべた惚れで先の約束が欲しくて必死の様だ。彼女さんの方は、もうそんな事良いじゃないと言いたそう。
 彼氏君の方は関西弁だけど、彼女さんの方は違うぽいな。
 10年後にあのシダックスがあるかどうかかなり疑わしいぞ。
 電車が駅に着き、人が動き二人の姿を斜め前にする場所へ動く。
 彼氏君の顔は見えないけれど、彼女さんの方は化粧がちょっと濃いけど、それを透して見れば年相応のかわいいめの顔立ちか。
「もう××駅? 次、いつ会える?」
 今日から仕事初めの企業も多く、昨日と比べればかなり人の増えた通勤電車内でいきなりぎゅーっと彼氏君に抱きつく彼女さん。
 はぁ……ご馳走様。

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 いきなり、文章の登場にも内容にも脈絡が怪しい事書いてますけど、今日の通勤電車でなんとなく印象に残った事でした。
 結局、ラヴラヴなのね。
 女の方がシビアで不確かな未来の夢なんて見ようとしない。直近の手の届く約束が欲しい。
 不確かでも夢の見られるものを欲しがるのは得てして男の方なんやな、って朝から思い出しましたとさ。